1 ■ カントリー音楽が生きる支えだった・・・・・・ ■ |
今年の初め熊本市の伝統工芸館であった木工芸家の個展で、カウボーハットの浮き彫りがほどこされた仏壇が来場者の注目を集めた。 注文したのは熊本市京町の会社員竹村紀久子さん(58)。 この仏壇にはカントリー音楽のファンで昨年9月に30歳の若さで病死した長男・昭太郎さんを喜ばせようという、母親の願いが込められていた。 昭太郎さんは生後まもなく、発達障害のあるダウン症に加え、心臓に穴が空いていたことが判明。 医師から「三年程度の命でしょう」と伝えられた。 それでも昭太郎さんは元気に成長。 養護学校入学後、母の趣味のカントリー音楽に傾倒し、明るい性格に輪がかかった。 ■ カウボーハット仏壇に浮き彫り お気に入りは在熊のカントリー歌手、チャーリー永谷さん(65)のバンド。 月数回は、紀久子さんと永谷さん経営のパブに足を運んだ。 カウボーイハットに穴あきのジーンズ姿。 ジンジャエールを飲み、演奏に合わせて口ずさんだり、体を揺らしてリズムをとった。 自宅でもバンドのテープを聞き、家族や友人の前でギターを弾くまねをし、永谷さんを気取った。 しかし、20歳の頃、胸の調子が悪化。 常に酸素吸引が必要となり、入退院を繰り返す。 「持って半年です・・・・」 紀久子さんは医師から二度目の宣告を受けた。 それでも奇跡は続いた。 永谷さんが春と秋に開くコンサートの時には復調。 ウエスタンルックで病院から車椅子で会場へ。 やはりカントリーファンの故福島譲二前知事と再会するのも楽しみだった。 「イベントが生きる支えだった。お医者さんも『医学的に考えられない』と驚いていました。」 と紀久子さんは振り返る。 昨年九月十九日。昭太郎さんは母、祖母、知人に永遠の別れを告げた。 「大切な友人を失った。私達が彼に励まされることが多かった」という永谷さんは、告別式で昭太郎さんが好きだった曲を演奏し、追悼した。 ■ 病死の息子喜ばせたい 半年後の今年三月上旬。京町の竹村さん宅に褐色の仏壇が届いた。 材質はギターのボディーに使われるクルミ。カウボーイハットの浮き彫りは中段に約10センチ四方にわたってデザインされた。 「息子が三十年も元気に生きれたのはカントリー音楽のおかげ。いつまでもカントリーと共にいられますように」と紀久子さんが考えついた。 製作を請け負った八代郡宮原町の木工芸家、古島隆さん(52)は「お母さんと話しをして、息子さんへの深い愛情が伝わった」 と話す。 紀久子さんは「今でも息子の友人が遊びに来て、私達家族をなぐさめてくれる。 人間関係を含めて、私の世界を広げてくれた息子に感謝しています」。 年二回のコンサートには遺影を持って参加し続けるつもりだ。 |